塩基配列
2001年の秋から、一時ひるめしは林檎一個とトマトジュースだけだった。
なんなく健康な気分になれて、しかも経済的なことにすこし酔いしれてさえいたが、
半年ぐらいでごっそりやせこけた。
風邪をおして美容院に出かけたら意識がなくなり、
栄養失調と診断された。
でもそれは重要じゃない。
林檎は一個食べればそこそこ腹が膨れる。
スーパーに行けば種類も豊富だ。
時期によってはジョナゴールドや王林は100円/個で買える。
食べつづければ、甘味や水分量のちがいもわかるし、
レジのおばさんにも覚えられる。
…が、です。
そうした、無意識な感覚の鮮鋭化や愛着の深化はなだらかすぎて、
気付きにくい。
前は余裕で食いきれたホウヨウケンのチャーハンセットが、
とてつもなく油ギッシュだと思うようになって、
寝起きなのに疲労感にとらわれて、
ちょっとした風邪が何週間も直らなくなってはじめて気付く。
おれは林檎にどっぷりはまってたんだと。
林檎生活が始まった当初は、すこし空腹が満たされない感じを抱いたが、
2002年の冬にはそれが当たり前になってた。
卒論を林檎と共に書きつづける生活の中で、
気分とは相反してむしろ、不健康になっていった。
2002年の春に久しぶりに林檎の香りに気付いた。
木の香りに似たいいにおいだった。
そこで気付くべきだった。
行動するべきだった。
習慣や馴れに甘えがちな性格の痛いとこだ。
機を逸して取り返しがつかない。
他の果物を試しても駄目。
林檎がいい。
個人的な思いを帰すれば、高まりは永遠になる!
明日を聞いて、直後もない。